これまでの4話は、すべて「買う→異変→返品」という一人称的な繰り返しでした。
今回はあえて視点を酒場に移し、当事者ではない人たちの会話だけで噂が育っていく
様子を書いています。
バルクが一人目、二人目、三人目と指を折りながら淡々と数え上げる場面は、彼自身は
まだ深刻に捉えていない、という温度を保つためです。話す本人が面白がっている程度なのに、
聞いている側が勝手に「呪いじゃねぇのか」「触るなよ」と膨らませていく。この温度差が、
噂というものの生まれ方そのものだと思って書きました。
誰も嘘はついていません。三回返品された、というのは事実です。それに尾ひれがつくだけで
怪談になっていく過程を、否定も肯定もしないバルクの態度を通して見せたかったので、彼には
ずっと聞き役に徹させています。
「……ただの杖だ」という本音と、「最後だろ」という呟きが矛盾しているのは意図的です。
理屈では否定したいのに、感覚のどこかで何かを察している。この二つを同じ場面に並べる
ことで、バルク自身の中にも小さな怪談が生まれ始めていることを示しました。
最後はそういうヲチ?というネタを仕込んであります。お楽しみに。
次回公開
10月3日21:00
第6話 うっかりの贈り物


