本編とは少し違う温度で書きたくて始めたスピンオフです。1話目は、バルクという人物の
紹介も兼ねています。傾いた看板、まちまちな値札、玉石混交の品揃え――説明的な性格描写を
避けて、店の雑然とした空気だけでバルクという人となりを見せるつもりで書きました。
杖の異物感は、装飾の派手さではなく「綺麗すぎること」「仕入れた記憶がないこと」で
出しています。ホラー的な演出を強くするより、バルクの「……まあいい」で流させることで、
不穏さをコメディの手前に留めたかったからです。この店の日常が、多少の違和感では
揺らがないという空気そのものを、逆手に取っています。
値段を「銀貨一枚」と適当に決めるくだりは、バルクの商売の緩さを見せると同時に、
この杖の異常さと店の適当さのギャップを際立たせるために置いています。
客の若い魔術師が「重い……?」と一瞬だけ違和感を覚えて、すぐに打ち消す場面は、今回
いちばん慎重に書いた部分です。ここで深追いさせず、本人にも読者にも「気のせいか」で
流させることで、次への引きにしています。
最後の「三日で三回返品される」という一文は、今回唯一、地の文が明確に未来を先取りする
書き方をしています。スピンオフらしい軽さで、次への期待だけ残す終わり方にしました。
次回公開
9月19日21:00
第2話 沈黙する杖


